飯野 貴明 院長(西谷内科・在宅クリニック)のインタビュー

西谷内科・在宅クリニック 飯野 貴明 院長

西谷内科・在宅クリニック 飯野 貴明 院長 (TAKAAKI IINO)

東京都出身。千葉大学医学部卒業。千葉大学医学部附属病院 総合診療科、ドクターメイト株式会社に所属。2021年から2023年は、医療法人葛西医院(大阪市)在宅診療部長、KISA2隊クラスター支援部隊 隊長として勤務。その後、キャリアブレイク期間を設け、家族と日本各地を旅し、世界を一人で巡る。2025年6月に西谷内科・在宅クリニックを開院。

「人と話すのが好き」だった気持ちが始まり

医師を目指したきっかけは、小学生の頃にさかのぼります。もともと人と話すのが好きで、さらに周囲の期待に応えることに喜びを感じる性格だったんですね。家族や親戚に医療関係者はおらず、自分自身も健康であまり病院に縁のない子どもでしたが、小学校の高学年くらいから、両親に「医者を目指してみたら?」と勧められるようになって。最初は、期待に応えられたらうれしいなという気持ちでした。でも、それがだんだんと自分自身の夢になり、今ではしっかりとやりがいを感じるように。医師として働くなかで、普通に生活しているだけでは出会えないような方々と深く関われる。その経験ができるのは、この仕事ならではだと感じています。
もし医師になっていなかったら──高校の先生になっていたかもしれません。未来ある10代と日常的に関われる仕事って、30代の自分にとっては貴重ですから。医師の仕事は、人生の最終段階に向き合う方々と接することが多いですが、教育の現場のように、これから人生を歩んでいく人たちと向き合う立場にも、きっと魅力を感じていたと思います。

キャリアブレイクで見つめ直した、自分と医療のあり方

大学卒業後は千葉県での病院勤務を経て、3年目に東京の病院へ就職。ですが、環境が合わずに体調を崩し、9カ月間の休職を経験しました。患者さんのことが心配で病院に泊まり込む。神経がすり減って医療の質が落ちる。という悪い循環に陥り、身体的にも精神的にも限界だったんですよね。最初の半年間は、抑うつ状態のようになって、ほとんど家で横になって過ごしていました。そんななか、少しずつ気力が戻ってきたときに、友人を訪ねて札幌や大分など、日本各地を少しずつ旅するようになったんですね。その体験がきっかけになり、開院前の1年間、思い切って仕事から離れ、自分を学びなおすキャリアブレイクの期間を取ることに。「定年後じゃなく、元気な今だからこそ」という想いで、妻と話し合い2人で47都道府県を巡る旅に出ました。その時間は、「どんな生き方をしたいか」「これからどう働きたいか」を深く語り合う日々でもありました。
よく「リフレッシュ期間だったんですね」と言われるんですが、僕の中ではむしろ逆で。旅の間のほうが、自分の意思で選択し続ける日々でした。どこに行くか、何をするか。ルーチンは少なく、全部、自分たちで決める。だからこそ、責任を持って過ごせた時間だったと思います。この期間に感じたこと、考えたことは、今のクリニックの運営や、患者さんとの接し方に確実に活きています。

病気を診るだけじゃない、“地域の居場所”になる医療を

このクリニックを開院することになったきっかけは、義理の母の存在でした。この建物の上にある西谷眼科は、妻の母が長く院長を務めていて、地元では「お城みたいな建物の眼科」として親しまれてきました。数年前に建物の老朽化が進み、建て替えの話が出たタイミングで、「新しく作る建物で、一緒に内科をはじめてみない?」と声をかけてもらったんです。ちょうど妻の仕事の都合で大阪に転居することになっていたので、「それなら本格的に開業に向けて準備しよう」と考えて、3年間、大阪のクリニックで修行を積みました。その後、先ほどお話したキャリアブレイクを実行。そして、2025年6月に西谷内科・在宅クリニックを開院しました。
目指しているのは、「ただ病気を診る場所」ではなく、地域にとっての“サードプレイス”のような医療機関です。待合室には医療に関係のない漫画を置いたり、気軽に立ち寄れる雰囲気を大切にしています。病気じゃなくても来られる。ちょっと話したくて来てもいい。そんな場所が、これからの医療には必要だと思うんです。午前は外来、午後は訪問診療というスタイルをとっていますが、地域全体のウェルビーイングを上げることが、クリニックの大きな目標です。

医療の“ハブ”として、患者さんと地域をつなぐ

診察では、最初の30秒くらいは、あえて言葉を挟まずに患者さんのお話を伺い、何を求めて来られているのかを感じ取るようにしています。たとえば、発熱のために受診した場合、症状を抑える薬がほしい方もいれば、会社に提出する診断書が必要なの方、あるいは大切な家族と同居しているから感染症の検査をして対応を考えたいという方もいます。そうした背景を、こちらから丁寧に汲み取っていくことが、僕にとっての“聴く力”だと思っています。
医師として何でも対応できることが理想かもしれませんが、それは現実的ではありません。だからこそ、自分が直接対応できない場合でも、“ハブ”のような存在として、地域の医療資源と患者さんをつなぐことを大切にしています。医療機関と連携を取って役割分担ができたらと思っています。たとえば、当院がかかりつけでもライフサイクルの変化で午後に受診したい方は近くのクリニックにお願いし、近くのクリニックへ通院が難しくなった方の訪問診療をこちらで引き継ぐなど、患者さん、地域のクリニックの先生、私の“三方よし”を実現できる形を目指しています。

地域と人生を支える医療を

僕は、このクリニックを30年後に引退するつもりで始めました。いま35歳なので、65歳をひとつの節目として、情熱が続く限りこの地域で医療に関わっていけたらという想いです。30年は、ちょうど一世代が巡る時間。今、僕が訪問診療で診ているのは80〜90代の方々。その方々の息子さん・娘さんの世代が、30年後には同じように人生の最終段階を迎えることになりますよね。そうした時代の流れの中で、最初に関わった方のご家族とも、最後まで寄り添えるような医療を提供したいと思っています。
日本は、今後ますます高齢化が進んでいきます。特に2040年頃に、団塊の世代の方々が平均寿命を超えるタイミングを迎える。医療資源が足りなくなることが懸念されています。そうした時代に、自分にできることは何かを日々考えています。たとえば、「人に迷惑をかけたくない」と思って我慢してしまう方の背中をそっと押すことかもしれません。実際には、周りのご家族は「何かしてあげたい」と思っている。でも、ご本人が「迷惑になる」と遠慮してしまう。そんな状況を、もう少し寛容なかたちにできないか。「助けてもらうことは恥ではない」「頼られることを嬉しいと思っている人がいる」という空気を、少しずつ育てていきたいですね。私自身も感謝の気持ちを忘れずに、次の世代の文化や考え方に小さな種をまけるような健やかで、穏やかな医療を続けていけたらと思います。
この地域に来て、まだ日は浅いですが、街の持つ“深み”を日々感じています。長く住んでいらっしゃる方もいれば、最近住み始めた方もいらっしゃる。そうした皆さんのお役に少しでも立てる存在でありたいと思っています。医療だけで地域の課題を解決することはできないかもしれません。でも、医療をきっかけの1つにして、“暮らしそのもの”を支える動きにつなげていけたら。そのために、まだまだ新参者の私ですが、地域のことを教えていただきながら、一緒に考えていければうれしいです。

 

※上記記事は2025年7月に取材したものです。
時間の経過による変化があることをご了承ください。

西谷内科・在宅クリニック 飯野 貴明 院長 (TAKAAKI IINO)

西谷内科・在宅クリニック 飯野 貴明 院長 (TAKAAKI IINO)

  • 出身地:東京都
  • 趣味・特技:ランニング、漫画を読むこと、47都道府県それぞれのエピソードを語れる
  • よく読む本・愛読書:アイシールド21と最近は瀬尾まいこさんの本
  • 好きな映画:「名探偵コナン」
  • 好きな言葉:一隅を照らす
  • 好きな音楽:MAN WITH A MISSION
  • 好きな場所:西谷

INFORMATION

西谷内科・在宅クリニック

電話 045-520-3217
所在地西谷4-5-8 地下1階
最寄駅西谷駅 徒歩3分、上星川駅 約1.9km、羽沢横浜国大駅 約2.0km
診療時間[平日]9:00〜12:30 14:00〜17:00(午前は外来診療/午後は訪問診療)
[土曜]9:00〜12:30(外来診療のみ)
休診日日曜・祝日
診療科目 内科 訪問診療